[テーマ]高度なネットワーク同期技術の研究開発
所属:通信総合研究所分室
氏名:北口 善明
1.まえがき

 ネットワークを介した時刻同期では、ネットワーク遅延のゆらぎがマイクロ秒オーダであるため、その同期精度は低いものとなっている。ネットワークを利用する時刻同期の方法として一般的に用いられているNTP(Network Time Protocol)では、統計的手法を用いその精度の向上を図っているが、完全に遅延のゆらぎの影響を除去するには至っていない。また、この処理のためにプロトコルが複雑なものになっている。

 

2.研究概要

 我々のプロジェクトでは最小限の機能による軽量アクティブネットワークの研究を進めており、このコンセプトの1つとしてネットワーク側から時刻同期への手助けを行う仕組みを調査・研究している。

 ネットワーク遅延のゆらぎの最大原因は、経由するネットワークでのキューイング遅延であり、その中でもルータにおける処理遅延のゆらぎが大きいとい言える。本研究では、ルータでのゆらぎを解消するための方法として「パケット自己消滅手法」を用いる。この手法では時刻同期パケットにあらかじめ「最低遅延時間」を記述して送信する。アクティブノードでは、受け取ったパケット内の最低遅延時間と自身のネットワークのキュー長とを比較し、キュー長が指定した値より長い場合パケットの破棄を実行する。これにより、ネットワークが混雑した場合に通過した時刻同期パケットはなくなり、ネットワーク遅延ゆらぎを小さくできると考えている。

 

3.ネットワーク構成

 このパケット自己消滅手法を実装する上で、以下の2種類の方法を考えている。
 1つは経由するアクティブルータ*1を通過する際に許可するキュー長(MTQ:Maximum Transmission Queue)を指定し、その値を越えるキュー長を持ったアクティブルータではパケットが破棄される方法である。この手法は、パケットがMTU*2 を超過した場合に破棄される仕組みに似た手法で、その概念図を図1に示す。この方法を用いた場合、アクティブルータではキュー長の比較のみを実施するため処理が比較的簡なる。
 もう1つの手法は時刻同期パケットに最大キュー長(QTL:Queue To Live)を指定し、経由する各アクティブルータにて通過する際のキュー長分を差し引きし、0になった場合にパケットを破棄する方法である(図2参照)。これはIPパケットのループ防止のために用いられるTTL*3 の仕組みに似た手法で、トータルのキュー長を指定できることで通信遅延時間のゆらぎをできるだけ小さくすることが可能であり、MTQを用いた場合よりも精度が良くなると考えられる。この手法では、各アクティブルータにて時刻同期パケット内のQTLを変更する必要があるため、MTQを用いる場合に比べ各ルータでの処理が大きくなると考えられる。

 *1 アクティブルータ:アクティブネットワークの機能を実装したルータ。パケットに記述したアクティブコードを解釈し、パケットを転送する。
 *2 MTU(Maximum Transmission Unit):一回の転送で送信可能な最大データサイズ。この値を超えたパケットは物理的な回線によってこの値は異なり、イーサネットでは1,500バイトとなっている。
 *3 TTL(Time To Live):設定ミス等によるパケットのループを防止するために、パケットに設定されたネットワーク内での存在可能時間。パケットが通過するルータにて1減少し、値が0になると破棄される。

MTQ方式の概念図
▲図1 MTQ方式の概念図

QTL方式の概念図
▲図2 QTL方式の概念図

 

4.これまでの成果

 NTPがネットワークの通信遅延時間のゆらぎから受ける影響を調査した。測定方法として、ルータを1台経由した場合の時刻同期精度と、同一セグメント上にてルータを経由しない場合の時刻同期精度をそれぞれ計測し、両者を比較する方法を取った。純粋にネットワークの影響を比較するために、我々が開発した高精度時刻PCをStratum 1*4 及びStratum 2にそれぞれ用いることとした。この高精度時刻PCは、PC内部のクロックを外部からの高精度信号に置き換えることを可能にしたPCで、数ナノ秒精度で時刻を安定して刻むことを実現している。この計測では高精度時刻PCをそれぞれセシウム原子時計の信号で駆動することで、Stratum 2での時刻修正の変動がネットワークの通信遅延時間のゆらぎによるものとできる。

 図3、図4にStratum 2での時刻オフセット値の変動を示す。前者が同一セグメント上にてルータを経由しない時刻同期、後者がルータを1台経由した時刻同期のそれぞれ9日間の観測結果である。この経由するルータにはクロストラフィック*5 が流れており、そのトラフィックの影響による通信遅延時間のゆらぎが発生することになる。この測定結果から分かるように、ルータを経由した場合最大100マイクロ秒程度の変動を受けており、同一セグメント上での時刻同期精度の約5倍変動している。

 *4 Stratum:NTPでは時刻参照のための階層構造をもつ。これをStratumといい、外部時刻源を有するNTPサーバをStratum 1、Stratum 1を参照しているNTPサーバをStratum 2という。
 *5 クロストラフィック:計測トラフィックに対して影響を与えるトラフィック。


▲図3 同一セグメント内での時刻同期精度


▲図4 ルータを1台経由した場合の時刻同期精度

 

5.社会的効果

アクティブネットワーク技術は、相互接続性を維持しながらネットワークに柔軟性を持たせることができる技術であり、今後の高速・大容量ネットワークにおいて重要と考えている。導入コストを抑えた軽量アクティブネットワークでの有効なアプリケーション例を示すことで、技術の浸透が進むと考えている。

 

6.まとめ(総括)

 ネットワーク時刻同期の精度を向上させる手法として、アクティブネットワーク技術を用いてルータのキュー長の情報を利用し、指定したキュー長以上のパケット破棄する「パケット自己消滅手法」を提案した。
 今後は、提案手法の実装をPCルータにて行い、実験室レベルから広域なネットワーク実験を通して、MTQやQTLの最適値、その有効性を評価・検証する予定である。

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