[テーマ]JGN長距離・大容量テストベッドを利用した高速トランスポートプロトコルの伝送実験
美甘 幸路研究員 所属:北九州ギガビットリサーチセンター
氏名:熊副 和美
1.まえがき
 北九州ギガビットリサーチセンターでは、本年度4月〜5月に、JGN長距離・大容量テストベッドの一般開放に向けての事前調査実験を行った。その後、その際構築した環境を利用してJGN長距離・大容量テストベッド上で高速トランスポートプロトコルの伝送実験を行ったので、ここではその内容を紹介する。

 

2.研究概要

 電子メール、ファイル転送、Web閲覧など私達がネットワーク上で利用している多くのサービスは、トランスポートプロトコルとしてTCP(Transmission Control Protocol)を利用している。TCPを利用することで、データが途中で抜け落ちたとしても、再度転送され(誤り制御)、また、ネットワークの状況に応じてデータ伝送量を調整することができる(フロー制御、輻輳制御)。しかし、現在、広く利用されているTCPは、ネットワーク資源を最初から効率的に利用できないという問題があり、長距離伝送に適さないプロトコルであることが分かっている。そのため、長距離・大容量ネットワーク上での利用を目的とした様々な新しい高速トランスポートプロトコルの提案が世界中の研究者によって行われている。さらに、提案された内容は、提案者、開発者によって実装・ネットワーク上で公開されており、これらを用いたテストベッド上での評価も盛んに行われている。そしてこれまでに主に、“どのプロトコルを利用すれば、1本のコネクションで最も帯域を効率的に利用することができるか?”という特性について報告がなされている。

 そこで、当リサーチセンターでは、現在提案されている高速トランスポートプロトコルを対象として、そのようなコンテスト的な特性だけでなく、これら新しいプロトコルが広く利用された時に生じる状況(ネットワークの混雑度合いが変わった場合、複数本のコネクションが設定された場合等)を想定した実験を、JGN長距離・大容量テストベッド環境を利用して行った。

 

3.ネットワーク構成

 図1に、実験を行った構成を示す。

 今回は、JGN長距離・大容量テストベッドで提供されている環境の中で、JAPANパス(600Mbps×8,000km)とEARTH2パス(120Mbps×80,000km)を利用して、エンドエンドのスループット特性を調査した。


▲図1 実験環境

 

4.これまでの成果

 提案されている様々なトランスポートプロトコルを利用した際のスループット特性の比較、複数コネクション設定時の特性、割り込みトラヒックが発生した時の特性の調査を行った。
 ここでは、その中から、トランスポートプロトコルとしてHighSpeed TCP、Scalable TCPを適用した場合の、JAPAN環境におけるスループット特性(コネクション数1本の時)を図2に示す。またあわせて各プロトコルを利用した時のスループットの平均値、最大値、また100Mbpsに到達するまでにかかる時間を表1に示す。

 図2及び表1よりHighSpeed TCP(HSTCP)、Scalable TCPを利用した場合いずれの場合においても、Standard TCP(既存TCP)を利用した場合と比較して、スループットの立ち上がりが改善され、平均スループット値も大きくなっていることが分かる。

持込ルータにおける大規模ネットワークでのパフォーマンス検証
▲図2 JAPAN環境におけるスループット特性


▲表1 高速トランスポートプロトコルフローの特性(Japan環境、コネクション1本)

 

5.社会的効果

 現在広く利用されている既存のTCPを利用した場合、ネットワークの帯域が十分である環境を利用できる場合であっても、その資源を効率良く利用できないことが分かっている。一方で、ネットワークの大容量化は進んでおり、その資源を効率的に利用することを前提としたアプリケーションが出現している。このため、既存のTCPに替わると期待される様々な新しいプロトコルが提案されているが、これらのプロトコルを対象とした実ネットワークにおける実証実験はまだ十分ではない。提案されているプロトコルの実力、利用に適している状況を知るために、テストベッドを利用した検証を重ねることは大変重要であり、さらにその内容を提案者、開発者にフィードバックすることが、新しいプロトコルをさらにロバストで安定したものにすると考える。今回も、実験実施に際してプロトコルの開発者、実装者から様々なアドバイスをもらい、また、得られた内容を報告して意見交換を行うなど、常に連携を取りながら実験を進めた。

 

6.まとめ(総括)

 今回取り組むことのできた高速トランスポートプロトコルの研究分野は、新規に提案されたプロトコルのコードがネットワーク上で配布されるなど、新しい技術を皆で評価して、より良いものにしていこうというオープンな空気に満ちていると感じた。そのコミュニティに少しでも貢献できればと考え、一般に開放されているJGN大容量・長距離テストベッドを利用して実験を進めてきた。今後は 今回得られた結果から、高速トランスポートプロトコルに必要な要件に関して考察を進める予定である。


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