[テーマ]自律抑制型フロー制御方式の研究
林研究員 所属:高知通信トラヒックリサーチセンター
氏名:林 秀樹
1.まえがき

 ルータやスイッチ(ノード)技術の進展が顕著であるほど、新規導入の高速ノードと既存の従来ノード(低速ノード)の処理能力に歴然たる差が生じる。この処理能力の差はネットワーク内のボトルネックとして顕在化し、ネットワーク性能向上のための高速ノードの投入が、反してネットワークの性能劣化を引き起こす要因になりつつある。すなわち、このような高速ノードから低速ノードを経由するフローには、低速ノードの処理能力を考慮し、これを速やかに反映できるフロー制御が求められる。
 現在のネットワークでは、フロー制御方式として、TCPフロー制御のウインドウ制御方式が広く用いられている。しかし、この方式はコネクションエンド間のフロー制御であるため、経由するノードの処理能力を速やかに知ることができない。また、処理能力差が大きい場合、再送制御を繰り返し、フローレートの収束に長時間を要するため、上述の課題解決には十分な方式とは言えない。

 

2.研究概要

 前述したように、現在、TCPフロー制御で一般的に用いられているウインドウ制御方式は、コネクションエンド間の送信に伴うパケットロスの状況に従い、送信レートの制御を行う方式である。送信レートを徐々に増やし、パケットロスが検出されると送信レートを減少させていく。しかし、送受するノードの処理能力が高く、送信レートとボトルネックを通過可能なレートの差が大きい場合、パケットロスが検知される時には、すでに大量のパケットが廃棄され、これらの再送のために大幅なスループットの低下を招くことになる。この事象は、場合によっては、収束するまで何度も繰り返され、コネクションエンド間の遅延が大きい場合は、さらに顕著に性能が低下する。
 本研究の目的は、高速ノードからのフローを、従来の低速ノードで受信する際に、パケットロスや処理遅延を最小化し、スムーズで安定したパケットの授受が行えるようにし、本来期待されていたフローの品質を確保することである。
 この課題に取り組み、研究を進めた結果、新しい方式として「自律抑制型フロー制御方式」を提案している。

 

3.システム構成

 パケットロスやノードのオーバーフローは、ノードの処理能力ボトルネックやリンクの帯域不足に依存する。これらのボトルネックは、結果的にノードのキューバッファサイズの上昇を導く。よって、キューバッファサイズを管理し、このバッファサイズの増減情報から受信バッファの許容値を予測し、情報通知遅延を考慮した予測値を、必要に応じて、送出ノードに抑制情報として通知する(図1)。

自律抑制型フロー制御方式
▲図1 自律抑制型フロー制御方式

 

4.これまでの成果

 自律抑制型フロー制御方式の有効性を評価するために、シミュレーションにより、ウインドウ制御方式との比較を行った。評価対象モデルとして、高速ノード間の通信を低速ノードが経由し、低速ノードがボトルネックとなったネットワーク形態を取り上げている。
高速ノードが1パケットを転送処理するのに必要な時間を1単位時間とし、低速ノードが高速ノードの1/10の処理能力を持つものとして、最小サイズのパケットの連続投入による経過を評価した。図2にウインドウ制御方式を用いた場合のスループットと遅延の評価結果を示し、図3に自律抑制型フロー制御方式を用いた場合の同評価結果を示す。
 
  これらの比較から明らかなように、自律抑制型フロー制御方式は速やかにスループットと遅延特性が安定することが分かる。


ウインドウフロー制御における性能評価

▲図2 ウインドウフロー制御における性能評価
自律抑制型フロー制御における性能評価

▲図3 自律抑制型フロー制御における性能評価

  自律抑制型フロー制御方式については、以下の学会発表を行っている。
   ・林秀樹, 島村和典, “自律抑制型フロー制御によるネットワーク性能の改善,” 信学総大, B-7-69, Mar. 2003.

 

5.社会的効果

 ブロードバンド・サービスの浸透に伴い、大容量伝送路をインタフェースするため新規開発ノードは高速化の一途を辿っている。これらのノードと、ネットワーク内で共存する従来のノードとの処理能力差は、今後のノード技術の革新と高速化が進むことが明らかなため、将来に渡って存在し、拡大していくことも考えられる。また、相対的に処理能力が顕著に劣るノードは、悪意を持ってノードに負荷を与えるDDoS(Distributed Denial of Service)攻撃*1 等の対象にもなりやすく、安定運用の面でも脆弱さを内在する状況が続くことになりかねない。
 したがって、このような状況でも安定したフローを実現する本研究のフロー制御方式は適用範囲も広く、効果が高いと考える。

*1 踏み台とした多数の装置から,ある装置に同時に大量のパケットを送りつける攻撃

 

6.まとめ(総括)

 本研究では、ノード間の性能差の開きが著しい場合でも、ネットワーク内で安定したフローを実現できる自律抑制型フロー制御方式を提案した。現在、この方式を応用し、フローを分散して送出し、ネットワーク全体のリソースを有効活用するための手法についてさらに研究を進めている。今後、この成果についても明らかにしていきたい。

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