[テーマ]高効率転送プロトコル(効率最優先TCP)
所属:幕張ギガビットリサーチセンター
氏名:榎本 正
1.まえがき
 ネットワークが高速化され、大量データ転送のビジネス利用が増加すると考えられる。
 例えば、幕張ギガビットリサーチセンターの共同研究の1つであるディジタルシネマのデータ配信、あるいは災害に備えたバックアップデータ転送などである。

 これらの利用方法は一般のインターネット利用と異なり、高速で遠隔地と大量のデータを効率よく確実に転送できることが求められる。また、一般的には回線交換あるいは専用線の時間借りなどにより、一時的に高速ネットワークを構成することも予想されるため、転送効率は回線コストに直接結びつくのでますます効率は重視されると考えられる。ところが、高速で遠隔地と通信する場合、フロー制御が難しく、従来のTCPで高い転送効率を達成することは困難である。

 

2.研究概要

 TCPプロトコルはインターネットで多くのユーザが帯域を共用して使うことを前提としているので、転送効率は必ずしも最優先で設計されていない。高速で遅延の大きなネットワークを使用して大量データを転送したとき高い転送効率を達成できない大きな理由は、TCPが「送信速度を徐々に上げていきネットワークの輻輳を検出すると、速度を半分にする」メカズムを採用しているため、高速・遠隔通信では最適値に達するまでの時間が長くなってしまうことにある。以下に実測データで説明する。

 

3.ネットワーク構成

 図1にネットワーク構成を示す。2つのPCルータ間はJGN内に設定した複数PVCを幕張のATMスイッチで切り替えることにより、遅延時間を切り替えて使っている。本稿で使用したPVCはJGNで提供している「長距離・大容量テストベッド」のJAPAN(PCR=600Mbps、rtt=90msec)とEARTH2(PCR=120Mbps、rtt=900msec)である。
 以下スループット図は、すべて横軸は通信開始からの時間(秒)であり、縦軸はスループット(メガビット/秒)である。

試験ネットワーク構成
▲図1 試験ネットワーク構成

図2はJAPAN使用時のスループットの時間推移である。40〜150Mbpsになるまでに約200秒(3分強)かかっていることが分かる。
図3はEARTH2使用時のスループットの時間推移である。1〜3Mbpsになるまでに約500秒強(9分弱)かかっていることが分かる。

スループット(JAPAN 従来TCP)
▲図2 スループット(JAPAN 従来TCP)

スループット(EARTH2 従来TCP)
▲図3 スループット(EARTH2 従来TCP)

 立ち上がりを速くするために、送信レートが、推定帯域×(1-e-rt)の型で帯域に収束するフロー制御方式を開発した。推定帯域はrtt毎にACKパケットの受信時間間隔をもとに計算している。

 この方式では、送信レートが小さいうちは従来に比べて速く増加するため帯域の利用効率が増加し、推定帯域に近づくとゆっくりと増加するためパケットロスの発生が少なくなりさらに効率が増加する。

 また、TCPは最初の立ち上がり時は、ネットワークの状況がまったく分からないので、急速に送信レートを増やし設定可能最大値まで増加させようとすする。このとき最適値を大幅に超える場合が多いので、推定帯域の3/4を超えると穏やかに変化させる改造も加えた。

 

4.これまでの成果

 一般のインターネットで使用した場合は、従来のTCPよりスループットは低下するが、少数のフローで広帯域を利用する環境では優れた性能を示すことが分かった。

 同時に動作するTCPフロー数が2〜4で、これらが帯域を共用する条件では、従来のTCPを使ったサーバだけで構成された場合と、改造TCPを使ったサーバだけの場合で合計スループットを比較すると1〜2割程度の改善効果が確認されている。
 改造TCPを使用したときのスループットの時間遷移を図4と図5に示す。図4はJAPAN、図5はEARTH2使用時の測定値である。

スループット(JAPAN 改造TCP)
▲図4 スループット(JAPAN 改造TCP)

スループット(JAPAN 改造TCP)
▲図4 スループット(JAPAN 改造TCP)

5.社会的効果

 今後、大容量データを遠隔地に限られた時間内に効率よく転送する利用方法が、ビジネスを中心に増加するものと考えられる。開発したプロトコルはこのような用途のサーバOS開発に役立つものと期待している。

 

6.まとめ(総括)

 「最大600Mbpsの帯域でしかも日本一周あるいは地球2周という長距離PVCを使って自由に測定を行える」という大変恵まれた環境のおかげで、従来TCPが長距離・大容量のネットワークを使って通信するときの動作を詳細に分析することができた。
新しいプロトコルあるいはアプリケーションの開発では実際のネットワークを使ったときの動作の分析と改良が必須であり、今後はJGNでの測定と改造を繰り返しながら、立ち上がりの速さのパラメータ調整等を進める予定である。

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