[テーマ]高品質映像大規模配信アプリケーションの研究開発
石丸研究員 所属:幕張ギガビットリサーチセンター
氏名:石丸 勝洋
1.まえがき
 近年のディジタル機器の高性能化及びブロードバンドの家庭への普及などを背景に、高品質映像(静止画、動画)を大規模に配信するシステムに関する期待が高まってきている。現状でブロードバンドと言われているのは、例えば、下り20Mbps程度のADSLなどであり、実際はその中でテレビ品質以下の映像などの配信が行われているのが現状である。では、今後の家庭への光ファイバの普及などを考えた際に、それほどの超高速NWを必要とするようなアプリケーションとは何かと考えると、まず真っ先に思いつくのはやはり映像系であると思われる。
 その中でもHDTV(高品位テレビ)以上の品質を有する映像に関する部分に注目すると、世界的に「ディジタルシネマ」「ディジタルミュージアム」というキーワードが多くメディアを賑わしている。幕張RCでは発足時より上記2分野に関して、超高速NWを介した高品質映像アプリケーションの研究開発という見地より、数々の実証実験を行ってきた。ここではそれらについて紹介する。

 

2.研究概要

 超高速NWを介した高品質映像の大規模配信という見地から、下記3つのテーマに関する研究開発を行っている。


【HDTV映像の大規模配信】
  解像度1,000本クラスのHDTV映像は現在アメリカのディジタルシネマ配信などで検討されている品質であり、今後は各家庭などでも需要のある分野であると思われる。IPネットワークで配信を行う場合、これまでIPマルチキャストなどの技術が研究開発されてきているが、既存NWでは、内部のルータ等によって対応がまちまちであるなどの問題点が多くある。そのため配信方式などを中心に研究を行い、JGNを介した全国規模での実証実験を行った。

【ディジタルシネマ】
  35mmフィルムの既存フィルムをディジタイズしてディジタルシネマとして鑑賞するためには、1,000本系では実は解像度が足りないことが従来より指摘されている。そのため東京大学の青山教授を中心とするディジタルシネマコンソーシアムでは2,000本系の普及を目指し、様々な活動を行ってきた。幕張RCでもその配信実験やネットワーク系に関する研究開発を行っている。

【ディジタルミュージアム】
  美術館や博物館では、所蔵物のうち特に貴重なもの関して保存の必要性と展示の必要性という相矛盾する問題を抱えており、その一つの解決手段が所蔵物をディジタイズしてPC等で表示する方式と考えられている。この場合の問題点は、映像品質と検索性(容易さ、速度、サーバ等の配置)である。これらについてJGNを介したNWアプリケーションの観点から研究開発を行っている。

 

3.システム構成

【HDTV映像の大規模配信】
 MPEG2でエンコードされた映像のストリーミングサーバを高知RC及び幕張RCに設置し、幕張RC、高知RC、東大分室及び東北大分室に設置したクライアントに向けて配信する。また東大にHDTVカメラとリアルタイムエンコーダ/ネットワークアタッチメントを設置し、これも配信する。このとき配信方式として、ユニキャストIPアドレスを用いたマルチキャスト方式であり、またサーバ及びクライアントの増減・移動が容易であるという特長を持つFlexcast方式を用いる。Flexcast方式では、映像などのストリームを自律的に作成した配信テーブルに沿って分配する中継器と、受信に用いるアクセスポイントをネットワーク内に配置する。それぞれの機器を図1の構成で配置し、実験を行った。

HDTV映像大規模配信システムネットワーク構成図
▲図1 HDTV映像大規模配信システムネットワーク構成図


【ディジタルシネマ】
 高速シネマサーバ、MotionJPEG2000リアルタイムデコーダ及び3,840×2,048画素のプロジェクタより構成される。シネマサーバは内部に高速な大容量HDDを持つPC(OS:LINUX)であり、GbEのネットワークインタフェイスを持つ。リアルタイムデコーダは内部でMotionJPEG2000並列デコーディングを行う構成であり、GbEのネットワークインタフェイスを持つ。これらの間はTCP/IPにて転送を行う。プロジェクタはJVC開発のD-ILA素子を用いたプロジェクタで、フレームメモリとプロジェクタ本体からなり、その間をディジタルインタフェイスで接続している。図2は実際のネットワークに接続した際の転送システム図である。

ディジタルシネマ転送システム
▲図2 ディジタルシネマ転送システム


【ディジタルミュージアム】
 千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館所蔵の江戸時代の小袖資料(以下江戸小袖と略す)のディジタル画像を用いて、検索・表示を行うアプリケーションを開発した。2,048×2,048画素の超高精細画像を蓄積するサーバを静岡県立大学に設置し、検索用のインデックスサーバを幕張に設置してある。これらにJGNを介してアクセスすることにより、任意の場所で江戸小袖画像の検索・表示が可能である。また検索の際には小袖の形状を選択して、手書きやパターンスタンプなどで視覚的かつ簡便に行えるようなシステムとなっている。ネットワークを介したシステムを図3に示す。

江戸小袖資料ディジタルミュージアムシステム
▲図3 江戸小袖資料ディジタルミュージアムシステム

 

4.これまでの成果

【HDTV映像の大規模配信】
 前述図1のシステムを構築し、ネットワークエンジニアリング実験と連携して3地点から配信される映像を30以上のクライアント数で受信した。多地点・多サーバ・10以上のクライアント数におけるHDTV配信を行う実証実験は世界でも初めての試みとなった。それぞれのFlexcast中継地点などでのエラーレートはほぼ0に近く、Flexcastを用いたHDTVクラスの映像配信が有効であることを実証した。また高知よりの伝送経路にMPLS網を用い、トラヒックの増加に対してMPLSルータが動的にトラヒックを分散させる機能を用いて、その際の影響なども確認した。実験の様子は広く報道発表し、多くの報道メディア(インターネットを含む)から注目された。図4に報道発表の様子を示す。

HDTV映像大規模配信実験報道発表の様子
▲図4 HDTV映像大規模配信実験報道発表の様子

 なお、これらの結果は電子情報通信学会研究会及び国際会議等にて発表済みである。

【ディジタルシネマ】
 最も注目された実験として、2003年6月1日に銀座ヤマハホールにて行われたディジタルシネマシンポジウム2003(TAO後援)に関して述べる。幕張RCにシネマサーバを設置し、大手町のNOCまでJGNを用いて転送した。NOC・銀座ヤマハホール間はNTT東日本が提供しているメトロイーサを用いた。End-endで450MbpsのTCP/IP転送を記録し、ほぼ回線レート一杯のスループットにて高信頼転送を行った結果、会場では15分間の映写の間映像にトラブル等全くなく、フィルムの種類による品質の評価などが行われた。図5に当日の様子及び1日のスパンでのトラヒックの様子を示す。

ディジタルシネマシンポジウム2003の様子
▲図4 ディジタルシネマシンポジウム2003の様子

 これらの結果については電子情報通信学会ソサエティ大会にて報告を行った。

【ディジタルミュージアム】
 開発したシステムは画像検索・表示クライアントをネットワークにアクセス可能な場所であればいかなる場所にも設置できるという特長を持つ。そこで2002年3月に国立歴史民俗博物館にクライアントを設置し、幕張RCに設置した検索サーバ及び静岡県立大学に設置した画像サーバにアクセスし、映像を表示することにより画像品質の評価実験を行った。館内の学芸員の方々からディジタルミュージアムとして展示を行えるという評価を得た。同様のクライアントアクセスを昨年度札幌において開催されたJGNシンポジウム会場にても行った。またこれらの結果を含む検討などをIEEE Transactionsなどに発表した。

5.社会的効果

 地上波ディジタル放送がこの12月より開始され、今後は一般家庭などにも高品質映像がディジタルの形態で配信されることになり、今回の大規模配信実験のデータ等は様々なところで活かされるものと考えられる。これに関連して、ディジタルミュージアムシステムにおいても、現在動画像への拡張を進めており、こちらもディジタルテレビ時代の映像検索などに関する先駆けとなっている。
 またディジタルシネマに関しては、今回の配信実験を始めとする過去の実験の成功など及び、青山先生を始めとするディジタルシネマコンソーシアムの働きかけにより、アメリカのディジタルシネマに関する標準化において、最高品質の映像における配信基準として規定された。これは日本発の規格が映画の本場で認められたことに他ならない。

 

6.まとめ(総括)

 これまでに世界で類を見ない実証実験などを行うことができ、大変充実したプロジェクトであったと思われる。今後ユビキタスなどのキーワードを元に、より身近でありかつ高品質なサービスアプリケーションが求められると予想されるが、その際にここまでに行われてきた大容量アプリケーションに関する研究開発が役立つものと確信している。JGN立ち上げから現在の総まとめまでに関わられた全ての方々に心より感謝致します。

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